ティツィアーノ
Titian (Tiziano Vecellio) ( 1488-1567)
イタリア   ルネサンス、ヴェネツィア派

ラヌッチオ・ファルネーゼ
1542


90x74cm

National Gallery of Art, Washington D.C.
ティツィアーノの洞察力の深さがわかる作品である。

ラヌッチオは教皇パウルス4世の孫で、イタリア屈指の強力な一族でもある。

当時12歳のラヌッチォは、エルサレムの聖ヨハネ騎士団(マルタの騎士)で首席であった。胸の十字は騎士団の紋章で「マルタ十字」と呼ばれているものである。

(この騎士団は13世紀に設立し、本来は十字軍に従軍し、聖地で負傷を負った兵士のためエルサレムに造られた病院を経営するために設立された。)

まだあどけない顔である。目は生き生きとしている。傷一つない人生である。

赤と金のサテンの豪華な衣装をまとっている。十字の紋章とともに、影になり見え隠れしているが、短刀が重々しく光っている。暴力と痛み、無邪気さが対照的に描かれているのである。

じっと見つめていると、赤と金の豪華なサテンの衣装は、まるで血に染まっているかのように見えてくる。

戦いの要素はいまだ影となっているのである。少年の右手は素手である。手袋を持っている。素手は恐れを知らない少年の心でもあり、かといって、守られているわけではない。

これからの人生の重荷を担い、将来を覆うであろう暗い影の中に小さな少年はポッツリとたたずんでいる。それは威厳を守ろうとして燃える小さなろうそくの火のようであり、痛々しい。

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