ルーベンス
Peter Paul Rubens ( 1577-1640)
フランドル  バロック

アンリ4世の神格化と摂政宣言
1621-25年頃

391x727cm

ルーブル美術館
ルーベンスは祖国スペイン領ネーデルランドの有能な大使でもあった。最高レベルの政治家たちと個人的に友好があったのである。

フランスの皇太后マリー・ド・メディスにもルーベンスは気にいられていた。マリーは、夫のアンリ4世が暗殺された後、息子ルイ13世の摂政として君臨した。ルイが成人し、正式に王位に就いた時、マリーはその権威にしがみつき、自分の地位を死守しようとした。

息子ルイと母親マリーの確執は、政治問題にまで発展し、ルイは母親を田舎に追放しなくてはならない羽目になる。追放されは母マリーは1620年までパリに戻ることができなかった。

その後マリーは、セーヌ川左岸にある美しいバロック建築のリュクサンブール宮殿に移る。それからのマリーは、この宮殿の改装と装飾に生きがいを見出すのである。二つのシリーズからなる48点の巨大なカンバス画を注文するのが、マリーの案であった。

シリーズの一つは、マリーの経歴を語りながらその功績を示すもの、もう一つは亡き夫アンリ4世の偉業を示すものであった。

おそらくルーベンスもこの仕事を引き受けたとき、顔面を引きつらせたのではないか。おそらく、ルーベンス以外の画家であったら、嘲笑しながらいいかげんな仕事を行ったかもしれない。画家としてルーベンスは一筆のゆるぎもなく、立派な仕事をしたのである。

真実を除外し、とるに足らぬことを大きく見せなくてはならない。それでも、出来上がりはすばらしい絵となった。

この『アンリ4世の神格化と摂政宣言』はそうした作品の中の一つである。古代神話と絡めて、偉大な物語絵を完成させたのである。ルーベンスの引きつった唇を想像してしまうが、画家としての手は緩めていない。

この絵は縦4メートル、横7メートル以上の巨大なキャンバス画である。題名が二つの構図を説明している。1610年に暗殺されたアンリ4世と、夫人マリーの摂政宣言という二つの出来事を描いている。この二つの出来事は、同じ日に宣言されている。

(拡大図1)
画面左側では、アンリ4世が天に引き上げられている。王は神になるのである。神格化である。

手に鎌を持った時間と死の神サトゥルヌスがアンリ4世を天に引き上げている。全能の神ユピテルが王を受け取ろうと身を乗り出している。ユピテルは爪で稲妻をつかんでいる鷲に乗っているが、その鷲は昇天する魂を表している。地上には矢で射抜かれた蛇がいるが、これは王の暗殺を暗示している。


画面左側では、マリーの摂政宣言が行われている。喪服であるマリーに球を差し出しているのが、武装している「フランスの魂」である。上方から舵を手渡そうとしているのは摂政を表す女性である。マリーは気が進まない様子で、フランス貴族や天の女神たちが懇願している。

右端に、メドゥーサの楯を持ったミネルヴァがいる。ミネルヴァは戦いと知恵の女神である。マルスと違い大義のための戦いの戦士である。

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