Arts at Dorian 主題解説 : 文学

シャーロット姫

イギリス 19世紀 詩人 アルフレッド・テニスン(1809−1892)の作品より
川の中州にシャロット姫は住んでいた。シャロット姫は、外の世界を直接見ると、死ぬ、という呪いをかけられていた。

川岸には、凛々しいランスロット卿の住む、キャメロット城がある。

シャロット姫の部屋には、鏡があり、それを通してしか、外の世界を知ることができない。

シャロット姫は、来る日も、来る日も、織物(タペストリ)を織りつづけている。

恋愛を楽しむ恋人たちの姿を鏡を通して見るにつけ、シャロット姫は、鏡に映る影の世界に退屈し始める。

ある日、ランスロット卿が、川のほとりで歌う。その歌声に惹かれ、シャロット姫は、織物の手をとめ、外の世界を覗いてしまう。

とたんに、呪いが現実となってしまう。

織物は飛び散り、その糸はシャロット姫に巻きつき、鏡には端から端まで、ひびが入る。

ランスロット卿を追い、舟に乗り、岸まで行こうとしたシャロット姫だが、キャメロットの岸に舟が着いたときには、息絶えていた。


アーサー王は、5世紀ごろ実在したとされるブリトン軍の武将である。1484年にマロニーによって、まとめられ、出版されたアーサーの物語は、中世風騎士物語であり、騎士道の世界に重点を置くものであった。英国の王室の直系という王族崇拝も含み、エリザベス朝の時代まで信じられていた。

しかし、ピューリタン革命で王権崇拝が崩れ、清教徒は王家にまつわる物語を弾圧した。

アーサー伝説が再び、息を吹き返すのは19世紀になってからである。詩人アルフレッド・テニスンが「シャロット姫」を書いた。以後、世紀末まで、画家たちは、この主題を好んで描いた。

英国は産業革命での功利主義がはびこっていたが、それに反発するように、中世主義が復活したのである。

中世復古を唱えたのは、トマス・カーライル、ウィリアム・モリス、ジョン・ラスキンら、絵画の世界ではちょうど、ラファエル前派の関連者たちである。

イギリスビクトリア朝時代は、道徳的に厳しい時代で有名である。産業革命で豊かになったイギリスであった。しかし、その反面、農業人工が激減し、職を求めて、ロンドンに失業者が流入した。その結果、娼婦やアル中が路地裏に溢れた。道徳など、知らない人々が街に溢れたのである。

貴族階級は、騎士道を通して、道徳精神の復活を願った。テニソンの詩は、まさしくこういった社会的気風を象徴している。

シャロット姫が、城に閉じ込められ、糸を紡ぐ。フェミニズムの批評では、その姿はまさしく、家庭を守る女性像である。そして、影の世界に飽きた、と嘆く姿は、破滅につながり、死の罰を受けるのである。男性社会がいかに、女性を家庭に閉じ込めておきたかったか。19世紀女性像を描いた絵なのである。

Sidney Meteyard (British, 1868-1947)
'I am half-sick of shadows', said the Lady of Shalott

1913
Julian Hartnoll, The Pre-Raphaelite Trust, London, England

ウォーターハウス
'I am Half-Sick of Shadows,' said the Lady of Shalott

1916
Oil on canvas; 39.5 x 29 in
Art Gallery of Ontario, Toronto, Canada


William Maw Egley
The Lady of Shalott

ウィリアム・ホルマン・ハント (イギリス 1827-1910)
シャーロットの女 The Lady of Shalott

Painted in 1886-1905

Oil on canvas; 17 x 14 in
タペストリを織っていたシャロット姫が、ランスロット卿を追いかけようと立ち上がった。身体に幾重にも糸が巻きついている。鏡の中に、鎧兜をかぶったランスロット卿が見える。

フェミニズムの批評では、絡みつく糸は、女性を家に縛り付ける社会制度であり、その禁止を破って外に出るということは、死の罰を受ける、という解釈である。

ウォーターハウス
The Lady of Shalott

Oil on canvas; 142 x 86 cm
Location: City Art Gallery, Leeds, England

ウォーターハウス
The Lady of Shallot
c.1888, Tate Gallery at London

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