オディロン・ルドン
( 1840-1916)
フランス  象徴主義

ペガソス Pegasus
1900, pastel , Hirosima Museum of Art, Hirosima, Japan
天馬ペガソスは、誰もがあこがれる動物ではないだろうか。

美しいぺガソスに乗って、自由に空を駆け巡る、という像は、誰もが簡単に、想像することができる。

しかし、ペガソスには、この優美なイメージとは正反対の、魔的存在としての反面を持っているのである。

ギリシャ神話のペレロポン伝説の中でも、ペガソスの不気味な魔性が出ている。

ベレロポンは、ペガソスに乗って、戦勝を繰り返す。しかし、ベレロポンは、だんだんに、驕り高ぶって、ついには、神々に自慢しようとして、天高く上っていく。

ゼウスが怒って、ベレロポンを、ペガソスから振り落してしまう。転落したベレロポンは、以後、足を悪くし、乞食をして一生を送ることになってしまった。(なお、この伝説は諸説あり、細かな違いは多々ある。だいたいこんなお話ということで、理解してほしい。)

このように、人間を英雄に仕上げ、名声を得させた後で、最後には奈落の底に叩き落す。これが、ペガソスの、もう一面なのである。

天馬ペガソスは、ペルセウスが、蛇の髪を持ち、見るものすべてを石に変える女怪メドゥサを退治したとき、メドゥサから飛び散る血とともに生まれてきたのである。

ペガソスの不気味な魔性は、怪物の母親の鮮血とともに出生したということに明瞭に現れている。

ペガソスは、後に、芸術家にインスピレーションを与える女神・ミューズたちの持ち物となる。ミューズたちは、ときおり、若い芸術家に、この天馬ペガソスを貸し与える。

芸術家は、ペガソスをうまく乗りこなさなければ、破滅してしまう。

ルドンの描いたペガソスは、高い崖の上にいる。人間の手の届かない場所である。そして、我々を見ている。いや、誘惑しているようでもある。

潜む魔性を十分に分かっていながらも、芸術家は、どんなにか、このペガソスを手に入れたいか。ルドンのペガソスは、芸術家の、そんな思いを見透かしているのである。

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