グリューネヴァルト
Matthias Grunewald (1470/80-1528)

磔刑 The Crucifixion
c. 1515
Oil on wood, 269 x 307 cm
Musee d'Unterlinden, Colmar
中央パネルはキリストの磔刑である。、鞭打ちで打ち破られた、見るもおぞましい皮膚である。皮膚病に侵された人々が治癒のためにきたこの病院において、強烈な衝撃を与えたに違いない。

十字架は、中途で叩き切った枝で、死に行く男の体重がかかり、弓のように曲がっている。キリストの腕は異様に長く、手はまるで叫び声を上げているかのようにねじれている。神への絶望と降伏を表しているかのようである。

右側にいるのが洗礼者聖ヨハネである。裸足で、動物の皮の衣を着て、本を抱えている。一見、冷静に、この恐怖の場面を見ているかのようである。彼自身の預言を夜の闇に刻んでいる。「彼は栄え、私は衰えなければならない」。旧約から新約へと移る瞬間を捕らえている。悲惨な光景に、バランスを与えるように、希望と救済のメッセージを刻んでいるのである。

右側の洗礼者ヨハネが、キリストの恐ろしい死を目の当りにして冷静なのに対し、左側の、キリストの母マリアは、息子の姿を、もうこれ以上見ることができず、倒れてしまっている。

初めグリューネヴァルトは彼女を直立で描いたが、後に、現在のように,痛々しい姿に描き変えている。

彼女を支えているのは、絶望する福音書記者ヨハネである。

左下方に膝間づいているのは、マグダラのマリアである。

右下の子羊は、ユダヤ人が神に犠牲を捧げるときに使用した動物である。キリスト教では「キリストの犠牲」の象徴となっている。洗礼者ヨハネの持ち物でもある。子羊は十字架を持っており、聖杯に流れ込む血とともに描かれる。

グリューネヴァルトのリアリズムとは、現実をそのまま描くのではなく、感情を強烈にデフォルメして描く、表現主義なのである。

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