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フュースリー
Johann Heinrich Fuseli (1741-1825)
スイス・イギリス   ロマン派

三人の魔女 The Three Witches 、1782-83
Oil on canvas; 65 x 91.5 cm
Kunsthaus, Zurich, Switzerland
影を呼び起こすもの

フュスリーはシェイクスピアの『マクベス』を主題に多くの絵を描いている。それは、『マクベス』が、人間の無意識に触れる物語であるからであろう。

『マクベス』は、三人の魔女の象徴的な呪文で始まる。

「きれいはきたない、きたないはきれい」

この呪文の意味とは何だろうか。

人間の無意識の奥底に抑圧された「欲望」という「影」を、混沌から呼び起こすための呪文である。

「きれい」と「きたない」、二つの相反する言葉は、まさに「薬は毒、毒は薬」のように分けられない。

人間の分けられらない意識の混沌とした部分に薬(毒)は染み入り、効き目をあらわしてくる。

魔女の呪文は、まさにマクベスの理性が抑圧していた「欲望」に染み渡る薬(毒)であった。
効き目は抜群であった。

マクベスの無意識に押し込められた「欲望」はどんどん元気を回復してくる。

まずは王ダンカンを殺し、自分が王となる。

マクベスは破壊へと向かっていくのである。

次には、マクベスを取り囲む者たちを信用できなくなり、どんどん殺していく。

粛清の嵐である。しかし、最後はマクベス自身が破滅してしまう。


人間が無意識を発見したのは19世紀になってからである。

しかし、すでにギリシャ神話を主題としたギリシャ悲劇は、この心理を直感的に発見していた。シェイクスピアもしかりである。

たとえば、ギリシャ悲劇に『ヒュッポリュトス』(エウリピデス作)がある。

ヒッポリュトスは、純潔の守護神アルテミスを崇拝し、愛の神アフロディテを蔑んでいたのである。

アフロディテはこの屈辱に怒り、彼に罰を与えたのである。

まず、王妃パイドラが義理の息子ピッポリュテスに恋をしてしまう。情念と規範の拮抗に悩む王妃は自ら命を絶ってしまう。

王はこれを知り、息子を呪い殺してしまう。

アフロディテの極端な愛の欲求と、アルテミスの極端な抑制。

この対立の均衡が崩れたとき、人間は破滅に向かうという物語である。

その他にも、アポロの冷静、デュオニュソスの狂気の対立関係がある。(関連記事 カラヴァッジョ 「バッコス」)

フュスリが描いたのは、人間の二重性、その対立の影を、人間の無意識の底から呼び起こす魔女たちである。

その魔女たちは我々の中に眠っているのである。

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